Best・Friend・KANA 「ひどい声ね。熱は」 「ぐどばぢぶ(9度8分)......」 「薬はあるの」 「ぎでぢゃぶだ(切れちゃった)......」 「食欲は」 「だび(ない)......」 「何も食べてないの」 「ぶうぅ(うん)」 「冷蔵庫に何か入ってる」 「だび(ない)......」 「分かったわ。今からそっち行くわね」 「びいど(いいよ)」 「良くないわよ。とにかくすぐ行くから」 風邪ひいた。と言うよりうつされた。あのクソババァ(小日向)、潔く休めばいいものを無理して出勤(でて)きやがって。おかげでワタシがぶっ倒れたじゃんかよぉ......あぁ、震えが止まらない。死にそうに寒い......。 こんなとき、いつにも況して友の存在に心打つ......なにぃ、アンタにも友達なんていたのかだぁ? 失礼なっ! 聞いて(読んで)驚けっ。自分で云うのも何だが、こんなワタシでもたった一人だけ心底信頼できる親友がいるのだぁぁぁぁぁーっ!! ふふふ......それもケタはずれ≠フな。 『立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花』 昔の人は良く云ったものだ。 その名は『橘 加奈子』。名前からして華麗なるその響きすら物足りなさを感じてしまうほどの絶世の美女だ。その美しさたるや、もはや個人の好み云々といった並のレヴェルではない。容姿端麗、八面玲瓏......この世の如何なる言葉を使いきってでさえも彼女を表現しきることはとても不可能だ。足の先から頭の天辺に至り、前後左右上下360度、どこをどう、どの一点とって見ても非の打ち所のない、まさに歩く黄金律=B しかも彼女の素晴らしさはその外見にとどまることはなく、アタマの良さは勿論、性格だって小心者のA型のワタシをとことんフォローしてくれて、今のようにワタシの為に残業をすっぽかしてまでわざわざ薬を買って駆けつけてくれたりして、行動力抜群で豪快な、男より頼れるO型なのだっ!!! そのカナとは同郷で中学までは一緒だったが、全国でもトップクラスの超高偏差値を誇り、当然学校内でも常に成績最優秀だったカナは県内でも有数の超有名進学女子校へ。一方、偏差値も半ば辺りをうろうろしていたワタシは、お世辞にも上品とはいえない......というよりも、はっきりいってガラの悪い連中が屯(たむろ)する共学の普通科へ進学したため、それ以降、互いに一切顔を合わせることもなかった。 第一、小学校からずっと常に成績優秀で運動神経もバツグン、そのうえ美しく可愛くて、性格も文句なしの誰もが認める一番人気(中学校ではなんと学校公認のファンクラブまであった!!!)だった彼女に比べて、自分でも気付かないほど存在感のない(自分で言うか)ワタシなど、何一つとして接点があるワケもなく、その間互いに話をした記憶がまるでない。さらに何故か不思議とその9年間、一度も同じクラスにならなかったのだ。そんなワケでワタシにとってカナはずっと届かぬ憧れであり、とても住む世界が違いすぎる遠い存在だった......にも拘わらず、それが......そのカナが、今や他ならぬワタシの為に、これまでロクに誰にもマトモに相手にされたことのなかった、このワタシだけのために薬局を駆け回り、このワタシのところへ足を急がせているぅ〜〜〜っ!! 「だ、だぶでごっだぁ〜び(な、なんてこったぁ〜い)......(改めて狂嬉)!!!」 まさに熱にうなされたかの如し。う〜ん、どうもイカン。やっぱ熱が出ると理性(そもそもあるのか、そんなモン?)がすっ飛んで仕方がない。 プルルルルルゥーッ! 「もしもーっ。今、お店出たところだから、これからそっち向かうわね。5分くらいで着くと思うわ」 「ぶうぅ。ぶぁがぶだ(うん。わかった)」 ......ん。待てよ......5分? 確かいま「5分」って云った......何で......? ? ? ? ? 聞き違えた......熱のせいで? この辺りじゃ薬局なんて駅前にしかないハズだし、そこからここ(部屋)まで歩いて20分は掛かる。いくらカナでも全速力で走ったって5分じゃ来られないだろうし......はて? と、そうこう熱で茹で上がったアタマのなかで呟いていると、 トントン。カチャカチャ。ガッチャッ、 「お待たせーっ。入るわよ」 合い鍵で玄関の扉を開けて入ってきたカナの両手には、薬局に留まらずコンヴィニの袋までぶら下がっている。 「ばじゃがっだぢゃぐ(早かったじゃん)」 「いいわよ、起きなくったって。そのままにしてて。ちょうど店を出たところでタクシーつかまえられたの。ラッキーだったわ」 な、な、な、なんとタクシーで!! ......ワタシのためにそこまでしてくれるなんて......(嬉泣)!!! 「何も泣くほどのコトじゃないじゃない。ほら、これで飲んで」 と、空っぽの冷蔵庫の前に置いた薬局の紙袋から風邪薬を、もう片方のコンヴィニのビニル袋からは500mlのミネラルウォーターのペットボトルをそれぞれ取り出し、 「とりあえず薬とお水。どうせ空きっ腹だろうから、これ一本(500ml)飲みきって」 「ごでぜぐぶ(これ全部)......ばじで(マジで)......!?」 「空きっ腹に薬なんて、胃壁を傷めたらもっと大変じゃない。だからってデザートとか糖分を含んだものと一緒じゃ効果が薄れるし。それに幾らか脱水症状も起こしてるだろうから、このくらい飲んじゃうのが一番いいのよ」 そう説明しながら胃袋へ流れ落とすようにペット・ボトルに吸い付くワタシをそのままに、空の冷蔵庫へ何やらどんどん袋から取り出し詰め込んでいく。そんなカナを横目に見ながら500mlのノルマを果たすべく、熱ですっかり干上がった咽喉にはまさにオアシスの如し冷たく美味しい潤いを改めて実感していたその時、 「ばぁぁぁぁぁっ(あぁぁぁぁぁっ)!!!」 「わっ、驚いた。何よ、急に大きな声出して!?」 と、ワタシの突然の叫びに目をパチリとさせてピタリと止まったカナの手には、 「ぞ、ぞでっ。ぞでだべだび(そ、それっ。それ食べたい)......!」 みっ、みかんゼリーがぁぁぁ〜っ!!! 「薬の効果が薄れるからダメって、いま云ったじゃない」 「びい、びい。びいがだぞでぢょぶだび(いい、いい。いいからそれちょうだい)!!」 「いいワケないじゃない。薬飲んでから30分はガマンしなきゃダメよ」 「ぞんだぜっぢょぶだぁー(そんな殺生なぁー)!?」 「少しの辛抱よ。とにかく、薬が効き出すまで待って」 我ながらもはや目の前にニンジンを吊らされたロバの如し......馬か? って、そんなことどうだっていいだろーが!? 「ぼぶぎいだ(もう効いた)。ぼぶだびぢょぶぶ(もう大丈夫)」 「なワケないじゃない」 「びどぐぢだげでぼびびがだ(一口だけでもいいから)」 「病人だからってしつこいと容赦しないわよ。何ならいま、この場で買ってきたモノ全部、アタシ一人で平らげちゃっても構わないんだから」 そういってカナは手にしたままのゼリーに平然とした表情で目をやると、 「......やっぱゼリーはラストよね。じゃぁ、先ずはコレからイッちゃおうっかな〜♪」 と、白いビニル袋から露呈される更なる驚愕の事実!!! 「ぶっ、ぶぞぉーっ(うっ、ウソぉーっ)。だぶで『べごぢゃんどぼぶべ』だぶが(なんで『ペコちゃんのほっぺ』なんか)......!?」 「でもコレからでも悪くないわよね〜♪」 更なる怒涛の攻撃は続く...... 「ぢゅ、ぢゅぅーぐぢぃーぶ(しゅ、シュークリーム)、べぐでばじぢょごでーどどーだっづ(エクレアにチョコレート・ドーナツ)......ぞでじじゅーばびづばで(それにシューアイスまで)。ばぶだ、ばだじぼごどずぎがぁぁぁ〜っ(アンタ、ワタシを殺す気かぁぁぁ〜っ)!?」 「そんなに騒がなくったっていいじゃない。ちゃんとセツの分も買ってあるって云ってるじゃない。それにアタシだって何も食べてないのよ。とにかく残りのお水、さっさと飲んじゃいなさいよ」 そう云ってカナは、未だ空になる様相を見せそうもない膨れきった袋から、更にチョコ・デニッシュ、チーズケーキ、フルーツタルトにアップルパイと果ては栗入りドラ焼きまで取り出し、ワタシの眼前でずらりと並べてみせ、 「コレ(チョコ・デニッシュ)にしーようっと♪」 「だ、だぶでごっだぁ〜び(な、なんてこったぁ〜い)......!!!」 ちっくっしょぉぉぉぉぉ〜っ!!! これもみな全部、あのクソキャリアババァ(小日向)のせいだ。おんのれぇぇ、死ぬまで呪ってやるぅぅぅぅ〜っ!!!!! |
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